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子どもが将来について悩んでいて、親として支えてあげたいのですが、どのように関わればよいのでしょうか?

お子さまが将来やキャリアについて考え始めたとき、どのように接するべきか悩む方も少なくありません。また、お子さま自身も就職活動や将来のことをうまく言葉にできないこともあるかもしれません。お子さまが自発的に将来について考えられるよう、「コーチング」という関わり方を試してみてはいかがでしょうか。
この記事では、お子さまのキャリア形成や就職活動をサポートするにあたって保護者がどのように接するべきなのか迷っている方に向けて、コーチングをおこなうメリットやお子さまに与える効果、コーチングをする際のポイントを解説しています。
そもそもコーチングとは?
コーチングとは、相手に自発的な行動を促すコミュニケーション手法です。
「コーチ」という言葉の語源は「馬車」だといわれています。馬車は、大切な人をその人が行きたいと望んでいる場所まで送り届けるための道具です。そこから発展して「人が目標を達成するために支援する」という意味で使われるようになりました。
コーチングでは、自分(コーチ)の考えや方法を一方的に伝えるのではなく、相手の主体性を尊重しながら成長をサポートします。コーチというと相手を指導したり具体的な助言をしたりするイメージがありますが、コーチングでは質問やフィードバックといった対話を重ねることで、以下のような気付きや行動を引き出していきます。
- 目標を達成するための行動を促す
- 新しい気付きを得るきっかけを与える
- 問題に対する視点(とらえ方)を増やす
- 課題を解決するための選択肢を増やす
ティーチングとコーチングの違い
コーチングと関連する言葉に「ティーチング」があります。
ティーチングとは、自分が習得した知識や技法などを教えるコミュニケーション手法です。
「ティーチ」の語源は「示す、指摘する」という古英語であり、そこから発展して、知識や技能を人に教えることや、教育や指導の役割を担う意味で使われるようになりました。コーチングは対話という双方向のコミュニケーション手法であるのに対し、ティーチングは伝えることが主な目的であり、一方通行のコミュニケーション手法である点で異なります。
コーチングが子どものキャリア形成に有効な理由
保護者がお子さまを育てる過程においては、例えば「交通事故に遭わないために赤信号のときは横断歩道を渡らない」など無事に生活するために必要な知識や技法、ルールなど「答え」を伝えるティーチングの手法を選択する場面が多くなります。
しかし、今後のキャリアや就職を考えていくうえでは明確な「答え」というものはなく、自らの意志で考え、選択し、行動しなければなりません。そのときに備えてお子さま自身の力を育てる必要があります。
特に、キャリア形成や就職活動の場面では、対話を重ねながら進めるコーチングがお子さまの成長を促すための有効な手段となります。
また、お子さまにとっては、保護者から指導や助言という形で意見を言われると、深く考えずにそれが「正しい答え」と認識してしまう場合もあります。その結果、自分の気持ちや意思があるにもかかわらず、それを表現することなく内に留めてしまったり、無意識に表現することを止めてしまったりと、自由な発想や判断ができなくなることも考えられます。
その他、就職活動を通じて自分なりの考えが芽生えることもあり、保護者の指導や助言に対して反発心を抱いてしまうことがあります。感情が先立ってしまい、冷静に判断ができなくなるリスクもあります。
こうしたリスクを防ぐためにも、対話を通じてお子さま自身に「納得感のある答え」を見つけてもらうコーチングという関わり方は有効とされています。
保護者がコーチングをする効果やメリット
続いて、保護者がお子さまに対してコーチングをするメリットを、お子さま側と保護者側に分けて解説します。
子どもに与える効果
ここでは、コーチングを実践することでお子さまにどのような効果が期待できるのかを紹介します。
自己理解を深められる
コーチングによる効果の一つとして、お子さま自身の自己理解を深められることが挙げられます。
キャリア形成の場において、自分に向いている職業や自分の価値観、自分の長所・短所などを知ること(自己理解)は、やりたいことや会社を選ぶ際の重要なポイントです。
しかし、これまでの学生生活で自己理解にじっくり向き合う機会が少なかったお子さまもおり、「どうやって自己理解を深めていけばよいのかわからない」といった意見もよく聞かれます。
保護者は、お子さまが生まれてからこれまでの成長過程や興味関心の移り変わり、お子さまらしさを身近で見てきている存在ともいえます。
「高校までは引っ込み思案だったのに、高校の文化祭や体育祭の委員を経験してから積極的になった」「昔から、自分で決めたことに対しては最後まで諦めない性格だった」など、お子さまの自己理解につながる過去のエピソードや考え方の変化について伝えることで、自己理解の手助けをすることができます。
ただし、保護者はお子さまの一面しか見えていないということもよくあります。
そのため、「あなたはこうだよね」と一方的に決めつけて伝えるのではなく、保護者から見たお子さまの印象を伝えたうえで、「あなた自身はどう思っているの?」と問いかけて、お子さまの考えや価値観を引き出すことがより重要です。
こうした関わり方が、お子さま自身も気付いていなかった長所や考え方の特徴、価値観などを知る機会になるでしょう。
自己肯定感を高められる
キャリア形成の場面では、お子さま自身が「その仕事に向いているのか」「自分の能力はその仕事をするうえで足りているのか」などを自問自答したり、他人に意見を求めたりすることもあります。
高い自己肯定感を持つことができれば、たとえ他人から自分の選択に対して否定的なことを言われたり評価されたりしても、過度に動じることなく「自分はこれが本当にやりたい」と自信を持って自分が選んだキャリアを歩んでいくことができます。
自己肯定感を高めるには、お子さま自身が自分の強みも弱みも含めて受け入れ、前向きに捉えることが重要です。また、過去の成功体験を一緒に振り返ったり、今までのお子さまの行動・言動を前向きに認めてあげることもよいでしょう。
身近な存在でありお子さまのことを深く知っている保護者が話を聞き、共感してあげることでお子さまの自己肯定感が高まっていくでしょう。
キャリアに納得感を持てるようになる
コーチングは、お子さまが自分のキャリアに納得感を持つうえでも有効です。
マイナビが2025年度卒の学生を対象に実施した「2025年卒内定者意識調査」によると、内定先に関する意思決定の際に助言や意見を聞いた相手として最も多かったのは「父親・母親(58.7%)」でした。ここから、就職活動を進める学生の意思決定に対する保護者の影響は小さくないといえます。
参考・引用:マイナビ「2025年卒内定者意識調査」
しかし、お子さまからの相談を受けた際に保護者の助言や意見が一方的に伝わってしまうと、お子さま自身が「就職先を自分の意志で決めた」という納得感を持ちにくくなり、後悔することもあります。
コーチングでは、保護者の価値観や考え方でキャリアや就職先を一方的に指示するのではなく、お子さまの考えや価値観を尊重し、判断を委ねる形で進めます。
最終的な判断はお子さま自身がおこなうため、結果的に「自分でキャリアを決めた」という納得感を持つことができます。
保護者側のメリット
保護者がコーチングをおこなう際に、一人の大人としてお子さまに接することで今までのコミュニケーションでは得られなかった新たな対話が生まれ、保護者側にもさまざまな効果が期待できます。
ここからは、コーチングによる保護者側のメリットについて解説します。
親子の信頼関係を深められる
コーチングは、親子の信頼関係を深めるきっかけになります。
保護者がお子さまに対してコーチングをおこなう際には、まず「あなたのことを信頼している」という気持ちで臨みます。そのうえで、一人前の大人として尊重し、自分の意思で自由にキャリアを選択できるように見守る姿勢を持つことで、お子さまの自立を促すことができます。
お子さまにとって、保護者が自分自身の考えやキャリア選択を尊重して受け入れてくれる、親身に相談にのってくれることは心強いでしょう。そうした安心感があることで、就職活動やキャリア形成においても相談しやすい信頼関係を築くことができるでしょう。
子どもの考えや気持ちを把握できる
コーチングを通じて、お子さまの考えや気持ちを把握できる点もメリットの一つです。
お子さまのキャリア形成を意識して対話を重ねていけば、前述したようにお子さまは自分自身のことをより理解できるようになり、気付きが生まれます。
その結果、これまで言語化できなかった感情や考え方をお子さま自身が素直に表現できるようになります。
保護者としても、コーチングによってお子さまのキャリアに対する考え方や気持ちに触れる機会が生まれ、今まで知らなかった一面を知ることができるでしょう。
自身の不安を軽減できる
コーチングにより、お子さまの状況や考えを把握することは結果的にご自身の不安を軽減することにもつながります。
マイナビがおこなった、大学4年/大学院2年以上で今年就職活動を終えた、もしくは現在活動中のお子さまを持つ保護者1,000名を対象にした「2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査査」によると、お子さまの就職活動に「不安になったことがある」と回答した保護者は56.9%に上りました。
出典:マイナビ「2024年度就職活動に対する保護者の意識調査」
「安定した仕事に就けるか」「希望している会社に入れるか」「順調に就職活動を進められるか」「就職活動で傷ついてしまうのではないか」など保護者にとっての不安はさまざまかと思います。お子さまの様子や状況がわからないとつい不安を感じてしまい、お子さまを問い詰めてしまうこともあるかもしれません。
しかし、コーチングの考え方を取り入れ、お子さまの話に耳を傾けながら対話を重ねることができれば、お子さまの価値観や考え方が少しずつ見えてきます。
自分なりの考えを持ち、一歩ずつ進もうとしているお子さまの姿を知ることで、保護者が抱える不安も軽減されるでしょう。
お子さまの就職活動に対する不安と寄り添い方については、以下の記事で詳しく紹介しています。併せてご覧ください。
・「子どもの就活が心配、どう寄り添う?保護者だからこその不安や悩みとは」を読む
保護者がコーチングをする際のポイント
保護者がコーチングをする際にはどのようなことに気を配るとよいのでしょうか。
ここでは、具体的なポイントについて解説します。
子どもへの期待と本人の希望の違いを理解する
コーチングをする際は、保護者の期待とお子さま自身の希望の違いを理解したうえで取り組むようにしましょう。
マイナビがおこなった「2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査」によると、保護者がお子さまの就職先に対して望んでいる特徴として最も多かったのは、「経営が安定している(54.1%)」でした。
また、「給与や賞与が高い(14.4%)」が前年より2.3pt増加し、増加幅としては「経営が安定している」に次いで2番目でした。
つまり、保護者はお子さまの就職先に対して、特に経営状況の安定や待遇面の良さを求める傾向があることがわかります。
参考・引用:マイナビ「2024年度 就職活動に対する保護者の意識調査」
また、マイナビがおこなった「2026年卒大学生就職意識調査」によると、就職活動を進める学生が企業を選択する際に重視しているのは「安定している会社(51.9%)」でした。
一方で、就職活動を進める学生の就職観を見てみると、「楽しく働きたい(37.4%)」という回答が最多で 、「個人の生活と仕事を両立させたい」が25.6%(前年比1.1pt増)となっており、「ワークライフバランスを重視したい」と考えている学生も増えていることが見てとれます。
このように、全体的な傾向はあくまでも予備知識として理解したうえで、お子さまがどのような願いや期待を持ってキャリア形成をしようとしているのかを認識することが大切です。
保護者の願いや期待を無意識にコーチング中のアドバイスなどに入れてしまい、一方的に伝えてしまうことで、お子さま自身が選択する機会を狭めてしまう可能性があるため、注意しましょう。
参考:マイナビ「2026年卒大学生就職意識調査」
子どもの話に耳を傾ける
コーチングでは、お子さまの話を否定したり評価したりせず、内容に耳を傾け、共感し、認める姿勢が大切です。
お子さまの考えに対して疑問に思い、つい保護者としての常識やこれまでの経験から否定したりお子さまの話をさえぎってしまうと、お子さまは「自分の話を聞いてもらえない」と感じ、保護者と本音で話ができなくなってしまったり、自分の意志を持つことを諦めてしまったりする恐れがあります。
そのため、コーチングではじっくりとお子さまの話を聞くことが必要です。
その際、以下のような関わり方を意識してみるとよいでしょう。
- お子さまの話を一人の大人の話として尊重しましょう
- お子さまの可能性を信じて、まずは話を聞きましょう
- お子さまが話す内容に対して、答えを提示したりアドバイスしたりしないようにしましょう
- お子さまが考えたことに対して共感し、受け入れましょう
子どもへの期待と本人の希望の違いを理解する
これまで、保護者はお子さまに対して「こうしなさい」「やめておきなさい」のように危険な行動を回避するための声掛けをしてきた経験が多くあると思います。
そのため、お子さまの将来を心配するあまり、助言や自身の意見を伝えたくなるかもしれません。
しかし、保護者の意見が先行してしまうことで、お子さまが自分でキャリアや方向性を考える機会を奪ってしまうことにもなりかねません。
お子さまが自分の将来について考え始める時期だからこそ、「指示をする」という関わり方ではなく「傍で見守りながら応援する」という関わり方に切り替えてみてはいかがでしょうか。
お子さまを信じて見守り、必要なときにそっと手を差しのべて「あなたなら大丈夫」と背中を押してあげる、そのようなコーチングの姿勢がお子さまの成長を後押ししてくれるはずです。
また、お子さまが話をしたがらないときは、無理に聞き出そうとせず「何かあったら相談してね」と伝え、話をしたいと思うまで待ちましょう。もし落ち込んでいる様子であれば、食事や買い物に誘うなどして気分転換をさせてあげるのもよいでしょう。
自然な会話のなかで問いかける
コーチングでは、お子さまの気持ちや価値観に寄り添い、理解しながら安心して話せる場を作ることが重要です。
何の脈絡もない状態で「仕事は何がしたいの?」「将来はどうしたいの?」「どんな会社を受けているの?」といった保護者が聞きたい情報ばかりを質問してしまうと、お子さまは問い詰められている気持ちになってしまうかもしれません。
また、お子さまにプレッシャーを与えたり、かえって会話がぎこちなくなったりすることもあるため、注意しましょう。
有意義なコーチングをおこなうためにも、できるだけ自然な会話のなかで、お子さまが気軽に回答しやすく、会話が広がるような質問をすることをおすすめします。
例えば「就職活動はうまくいっているの?」といった質問は、「うまくいってる」「うまくいってない」というように、回答が「YES」か「NO」に限定されてしまい、会話が広がりません。お子さまが自分の言葉で自由に回答できるようなオープンな問い方を心がけましょう。
ぜひ、日常会話の延長線上で以下のような問いかけを試してみてください。
- インターンシップや職場見学に参加してみて、どんな人と気が合いそうだった?
- アルバイトやインターンシップ先で何が楽しいと思った?
- 最近の就職活動はどんな風に進めるの?昔と違うと思うから教えてほしい
- 今受けている会社はどのようなところが素敵だと思う?
適切なコーチングをするために保護者ができること
保護者が適切なコーチングをおこなうためには、まずお子さまとの日常的なコミュニケーションを振り返り、つい言ってしまいがちなNGワードや見直したほうがよい口癖、コーチングを取り入れてみたい場面などを整理してみましょう。
そのうえで、日々の会話のなかで少しずつコーチングを意識したコミュニケーションに変えていくことが大切です。
コミュニケーションの見直しができたら、次はお子さまが抱えるキャリアや就職活動に関する悩みや疑問に対して、適切に寄り添えるよう、保護者自身も今の就職活動の採用手法やスケジュール、特徴などについて一定の知識や情報を身に付けておきましょう。その際は、お子さまが日頃使っている情報源を教えてもらい、お子さまと同じ目線で内容を見ることをおすすめします。
就職活動のスケジュールについては、以下の記事で詳しく紹介しています。併せてご覧ください。
- マイナビ「2027年卒 就活(就職活動)のスケジュールと進め方」を読む
親子間のコミュニケーションだけで、お子さまの考えや希望をすべて理解するのは限界があります。ときには、お子さまと同じ情報を見ながら、感想などを語り合い理解を深めていくのもよいでしょう。
例えば、以下のような適性診断ツールを利用してみることで、お子さま自身も気付いていない価値観や興味を知るきっかけになります。ぜひ、お子さまと一緒にご活用ください。
まとめ
保護者世代の多くが就職活動を経験した時期と比べると、世の中の状況は大きく変化しています。そのため、「お子さまの将来や就職活動が心配」という保護者の方は多いかと思います。
お子さまの成長を見守ってきた人生の先輩として、保護者の助言やアドバイスもときには必要ですが、お子さまが納得するキャリアを築くためにもコーチングというコミュニケーション手法を取り入れ、見守る姿勢で接することも検討してみてはいかがでしょうか。
マイナビでは、キャリアや就職活動について考え始めたお子さま向けのさまざまな情報を提供しています。ぜひご活用ください。
- 「マイナビ2027」を見る
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