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Profile

吉本 隆男
キャリアライター&就活アドバイザー
1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで就職情報サイト「マイナビ」の編集長を務めた後、地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムの開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

今の子どもたちの就職活動って、昔と何が違うの?

経済状況や就職活動の進め方をはじめとして、昔と今とでは就職環境がまったく違います。現代の就職活動を正しく理解することが、お子さまの就活支援の第一歩となります。
昔と今とでは、そもそも働くことに対する考え方や価値観が大きく異なりますし、産業構造も一変しています。また、就職活動の進め方が多様化し、情報収集の方法もインターネットが中心となりました。
保護者世代と子ども世代の就職環境や就職活動の進め方がどのように違うのか、詳しく解説していきます。
保護者世代と子ども世代、働き方の考えの違いとは
かつては、終身雇用や年功序列が一般的で、長時間労働を厭わず会社への貢献を重視して、一つの会社で定年まで勤め上げることが一般的でしたが、テクノロジーの進化、グローバル化の進展などによって社会が激変するなかで、働き方に対する考えも大きく変化しました。
マイナビが実施した保護者の意識調査によると、「転職は今ほど一般的ではなかった」「長時間労働や休日出勤などは当たり前だった」「結婚や出産・育児のタイミングで退職する人が多かった」が上位に入っています。
しかし今では、キャリアアップのために転職を前向きにとらえる人が増え、家族との時間や趣味を大切にすることが当たり前となりました。また、女性の活躍が進み、結婚や出産を経験した後も仕事を続け、自分らしいキャリアを歩むことが多くなっています。
<保護者世代が考えていた当時の働き方>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査 PDF」
産業構造が変化し、多岐にわたる就職先
産業構造も様変わりしました。
1950年代中頃から1970年代初頭までの高度経済成長期には、鉄鋼、自動車、造船、家電などを中心とした製造業が日本経済をリードしていましたが、今では小売、金融、運輸・物流、情報通信、教育・医療、観光などの第三次産業、いわゆるサービス業が中心的な役割を担うようになりました。その結果、大学生の就職先も大きく変化しています。
詳細なグラフの掲載は割愛しますが、総務省統計局「労働力調査」の2023年(令和5年)平均結果を見ると、大学生の就職先業界の割合は上位から卸売業・小売業(14.2%)、医療・福祉(14.2%)、情報通信業(11.7%)と続き、製造業は4位(10.5%)でした。大学生の就職先は、サービス業を中心に多様化が進んでいるというのが現状です。
参照:総務省統計局「労働力調査」
就職活動の進め方に変化
就職活動の進め方も保護者世代とは大きく異なります。かつては就職情報誌、いわゆる紙媒体が採用情報の情報源でした。自宅に届く就職情報誌に同梱されていた資料請求ハガキを、何枚も手書きして投函したことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。
それが今では、就職情報サイトで企業情報を収集し、インターネット上でエントリー(企業に興味があるという意思表示)をしたり、会社説明会に予約したりすることが一般的になっています。
また、選考方法も一変しました。
かつては履歴書をもとに書類選考をして、その後、筆記試験や面接を経て内定が決まるという流れでしたが、今は、履歴書とは別に、自己PRや志望動機などを記載するエントリーシートという書類の提出が求められることが多いです。面接のプロセスも多様化しました。回数が増え、面接の段階ごとに面接官が変わり、さまざまな面接スタイルが導入されるようになっています。

多様化する現代の就職活動プロセス
昔と今とでは選考フローが多くなり、内定まで時間と工数が必要となりました。

企業研究をして応募し、選考を受けて内定を獲得する……という基本的な流れは変わりませんが、現代の就活生にとって大きな壁となっているのが図の赤い部分で、中でもエントリーシートと面接です。
エントリーシートが通過しなければ面接に進むことができず、複数回の面接で上手く自分をアピールできなければ内定を獲得することができません。
そのため、どれだけ説得力のあるエントリーシートが準備できるか、そして面接で自分の強みや入社への熱意をしっかりアピールできるかどうかが、就職活動成功の鍵となるでしょう。
メディアの違いによる就活環境の変化
企業の採用に関する情報源が、就職情報誌という紙媒体から就職情報サイトというインターネットへとメディアが変わったことも、現代の就職活動を特徴づける大きな変化です。
企業の採用情報はインターネットを通じて広く公開されるようになり、気になる企業があればパソコンやスマートフォンを使って誰でも自由にエントリーできるようになりました。
ただし、採用情報のインターネット化が進んだことで人気企業に応募が集中し、知名度の高い企業の競争倍率が高まることもありました。就活生は誰もが知っている企業に関心が向きがちですが、納得のいく就職活動を実現するためにも、さまざまな業界、企業を見ることが重要です。
- 「就職情報サイト マイナビ2026」を見る
今の学生の就職観とは
今の学生の就職観についても確認しておきましょう。マイナビの調査によると、学生は「楽しく働きたい」「個人の生活と仕事を両立させたい」「人のためになる仕事をしたい」といった思いを強く持っているようです。
かつては、会社と従業員との関係が密接で、個人よりも組織を優先して働くことが主流でした。しかし、今は、自分の好きな仕事や得意分野を活かして楽しく働くことや、自己実現ややりがいを重視して仕事をすることが一般的になっています。こういった就職観がお子さまの企業選びや職種選びの前提となっているのではないでしょうか。
<今の学生の就職観>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2025年卒大学生のライフスタイル調査~ Z世代の就活生の“日常”と“将来”を徹底研究! ~ PDF」
就活生は「待遇」「社風」「安定性」を重視
今の就活生はどのようなポイントで企業を選んでいるのでしょうか。保護者世代との違いを解説します。
親子で異なる「安定」に対する考え方
就職観や価値観の違いは、就職活動における志望企業選びにも影響があるでしょう。保護者向けの調査では「経営が安定している」「本人の希望や意志に沿っている」「企業の成長性が見込める」「福利厚生が充実している」といった項目が上位にあがっています。
一方、就活生が重視する企業選びのポイントは「待遇面(給与、休日休暇制度含む)が良い」「社風や働く社員が良い・良さそう」「安定性がある」「福利厚生が充実している」が上位にあがっています。
保護者向けの調査でも就活生向けの調査でも、「安定」というキーワードが上位の回答に出てきますが、実は「安定」に対する考え方にも違いがあることが別の調査でわかっています。就活生に「企業に対して安定性を感じるポイント」を確認すると、「安心して働ける環境である」が2位の回答になりました。つまり、保護者の場合は「経営の安定」を重視しているのに対して、就活生は待遇の良さだけでなく、心理的に安心して働ける職場環境かどうかを重視しているようです。
<保護者が望む子どもの入社企業の特徴>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査 PDF」
<学生が就職先企業を選ぶ際のポイント>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2025年卒大学生活動実態調査(3月1日)」
<学生が求める企業の安定性のポイント>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2025年卒大学生活動実態調査 (3月)」
「安定している会社」と「給料の良い会社」が増加
就活生の企業選びのポイントは、時代によっても変化しています。下図は過去24年間の「企業選びのポイントの推移」です。これを見ると「安定している会社」が6年連続で最多となり、特に2021年卒以降、4年連続で増加。全体の5割に達する勢いです。
「給料の良い会社」も3年連続で増加しています。初任給の引き上げ、賃上げのニュースがテレビや新聞で取り上げられる機会が多くなっていますが、物価高に伴って経済的な不安を感じるのは就活生も同じです。
安心して働ける職場環境の良さを重視するとともに、少しでも待遇の良い企業を選びたいという思いが強いようです。
<就活生の企業選択ポイントの推移>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2025年卒大学生就職意識調査」
保護者と就活生で人気企業ランキングにも違い
保護者世代と子ども世代の企業選びのポイントの違いがよくわかるのが、就職企業人気ランキングです。保護者に「子供に働いてほしい企業」を聞くと、1位が公務員で、企業としてはトヨタ自動車や伊藤忠商事といった大手企業が名を連ね、グーグルなどの外資系企業もランクインしています。
一方、就活生に人気の企業は、1位が文系でニトリ、理系でソニーグループです。どちらの調査結果でも、何社か同じ企業名がありますが、保護者と就活生では注目している企業が異なるのが実状のようです。
<子どもに働いて欲しい企業と就活生の人気企業>

参考・引用:【表2】マイナビキャリアリサーチLab「2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査」
参考・引用:【表3】マイナビキャリアリサーチLab「【マイナビ・日経】2024年卒大学生就職企業人気ランキング」
子ども世代の職業観とライフプラン
子ども世代は就職にあたってどのような将来像を描いているのでしょうか。今の学生の価値観やライフプランについて解説します。
今後の働き方についての考えとは
お子さまの考え方を理解するには、今の就活生がどのような職業観を持ち、将来のライフプランをどのように考えているかを知ることも重要ではないでしょうか。
マイナビの調査で、人生100年時代に今後の働き方としてどのような考えを持っているかを聞いています。「ワークライフバランスを重視してそこそこ働けばいい」がトップで、「ある程度昇進して、管理職として仕事をしていきたい」「投資をして自分の資産を増やしたい」が続きます。
<就活生が考える今後の働き方>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「マイナビ2025年卒学生就職モニター調査(6月の活動状況) PDF」
個々の価値観を大切に、働き方やライフプランを自由に設計
結婚後の仕事や子育てについての考え方も、保護者世代と子ども世代では少し違いがあるようです。結婚後は夫婦で共働きをするほうが良いと思う保護者の割合は、「非常にあてはまる」と「まああてはまる」を合わせて49.2%ですが、「共働きが望ましい」と考える学生は70%。特に男子学生より女子学生のほうが数値は高くなっています。
また、男性も育休を取得し子育てする方が良いと思う保護者の割合は、「非常にあてはまる」と「まああてはまる」を合わせて49.6%ですが、育児休業を取って子育てしたいと考える男子学生は59.5%、同じく女子学生は59.7%と、保護者の回答より高い数値となっています。
今では共働きは当たり前で、男女が力を合わせて家事や育児に参加する時代です。結婚後の仕事に対する考え方も、時代の変化とともに大きく変わってきました。個人のキャリアを尊重し、固定観念にとらわれず個々の価値観を大切に、働き方やライフプランを自由に設計する傾向が強くなっているといえそうです。
<今の学生が考える結婚後の仕事と子育て観>

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査 PDF」

参考・引用:マイナビキャリアリサーチLab「2025年卒大学生のライフスタイル調査~ Z世代の就活生の“日常”と“将来”を徹底研究! ~ PDF」
お子さまの考えや価値観、自主性を尊重した就活支援を
働くことに対する考え方や価値観、職業観やライフプランについての考えが大きく変化し、就職活動の進め方が昔と今とでは大きく様変わりしています。繰り返しになりますが、現代の就職環境や就職活動プロセスを正しく理解することは、お子さまの就活支援の第一歩です。
お子さまが納得のいく就職活動ができるよう、決して過度に干渉するのではなく、お子さまの考えや価値観、そして自主性を尊重しつつ、必要に応じて適切なサポートを提供してあげることが重要ではないでしょうか。